創業は1927年。日本のオフィスにおけるファイリング文化のパイオニアとして、『キングファイル』をはじめとする個性的かつ実用的なファイル用品を次々と世に送り出し続ける『株式会社キングジム』。他にもラベルライター『テプラ』やデジタルメモ『ポメラ』などは、新市場の金字塔と呼ぶにふさわしい。
経営理念「独創的な商品を開発し、新たな文化の創造をもって社会に貢献する」のもと生み出されるオリジナリティ溢れる製品の数々。それらは、顧客満足に立脚した品質と使いやすさ、長く愛されるデザイン、そして環境配慮と、どれも常に高いメッセージ性を有している。近年は「オフィス環境改善」のためのグッズやライフスタイル雑貨にも視野を拡げるとともに、ファイリング研究機関としてセミナーやWebサイトを通じてのノウハウの提供や啓蒙にも注力している。
今回の主役は、オフィスグッズ業界のリード・メーカー『キングジム』の商品開発部で活躍する原さん。大好きな文具への熱い思いと成長の転機について取材した。
大好きな文房具+「一番」企業=『キングジム』 が志望動機
【Q】入社のきっかけは?
正直、学生時代は『キングジム』という社名を知りませんでした。
合同就職セミナーに参加した時に、「あっ…見たことがある」と思って近づいたのが『キングジム』のスクエアマーク。ブースに展示されていたのは学校でも目にしていたファイルや『テプラ』など子どもの頃から身近にあったものばかりで、もともと文房具が好きだったことも手伝って一気に距離が詰まりました。
仕事をするなら何かで「一番」と呼べる企業がいいと思っていました。厚型ファイルとラベルライターのふたつのジャンルでトップ…と聞いてますます興味が湧いたんです。たくさんの人に愛される製品の開発がしたいって思って。本気で目ざすスイッチを入れました。
スタートは営業職。周りに助けられながらの体当たり奮戦期
【Q】入社後のお仕事は?
無事に総合職採用で入社が決まり、商品開発を志望している旨を伝えつつ、最初の配属は営業部門。流通の方と一緒に大学の生協や文房具店などを訪問するルートセールスがスタートでした。
『キングジム』では「オフィス環境の改善」という視点での商品開発が進められているため、一般の文具の範囲では収まりません。商品のバリエーションがたくさんあって、まずはそれらを把握することに苦労しました。
しかも、便利でかつ役に立つようひとつひとつに意図やメッセージが込められているという自負もあったので、特に新製品の場合はまずはその良さや特長をきちんと説明してわかっていただきたいという思いで必死でした。
例えば、空調機からの風が直接当たるのを避けるために吹出し口に装着する『ハイブリッド・ファン』の場合、女性でも簡単に取り付けられることを実証するために、訪問する先々で自ら脚立に登って実演しました。
また、製品によってはターゲットの設定も変わるため、「どう売るか」を店舗の方と一緒に考え提案していかなければならなかったことも大変でした。時には開発担当と同行することもあり、風通しのいい環境に何度も助けられましたね。
商品開発はユーザーの目線から。気になることの解消がアイデアの原点
【Q】その後は商品開発部門に?
2014年6月に商品開発部門に異動になりました。現在はファイルなどの非通電製品部門の開発を担当しています。
商品開発としての一般的な流れは、まず各担当者が何を企画するかを決めてアイデアやプランを課内で起案します。ブレストのうえブラッシュアップしたものを、次は開発本部長・部長に、開発や販売のスケジュールとともに提案。了承されたら、最後に「開発会議」の場で社長・役員に上申します。そこでの「OK」が出たら商品化決定。改めて企画の具体化に着手するといったステップです。
基本的に文房具が好きなんです。だから素直に一使用者として商品に向き合っている感じで。もちろん他社の商品も使ってみます。
そのうえで、「こんなところが少し使いにくいなぁ」とか「ここがちょっと不便」とか「ここからすぐに傷む」とか、気になることや不満を書き出します。そして考えます。どうしたら?…って。こんな機能があれば解消できる。こんな形状ならもっと手に馴染む。こんな素材ならもっと丈夫になる。誰もが思うようなちょっとした希望やニーズに応えることが、新しい製品を開発する原点だと思ってやっています。
普段からも身の周りにアンテナを張りながら、大きな文具店にもしょっちゅう足を運んで、問題意識とアイデアをストックするようにしています。
今はほとんどの文具が「100円均一ショップ」でも買えますが、使い勝手に欠けていたり早めに劣化したり。価格も大事な要素ですが、やはり便利さを求めたいですね。価格以上のクオリティと使いやすさ、そして丈夫で長く使えることが大事。コストパフォーマンスの良さが課題です。
中央部分を外して書きやすくしたリングバインダーとか、ポケットの開口部に段差をつけることで書類が入れやすくなったクリアファイルとか。痒いところに手が届くと言うか、小さなアイデアで付加価値が大きく上がるって素敵だなぁと。社名やブランド名で選ばれる以上に、製品そのものの良さで選んでもらいたいです。お客さまが「あっ…これいい!」と思って買ったら、実は『キングジム』だった…が理想ですね。
営業経験があったからこそ育った商品開発に活きる「いいこだわり方」
【Q】成長のターニングポイントは?
営業職から開発部門に変わった時です。
自分の長所は「こだわり」が強いこと。そして短所はそのこだわりがなかなか諦めきれないこと。
この表裏関係の自己分析は子供の頃から自覚していて、就職活動の面接の場でも公言していました。
営業の仕事をしていると、どうしても相手の思いに寄り添わないといけない場面も時々あります。場合によっては妥協せざるを得ないことも多くありました。でも、流通やユーザーの方のナマの声や意見を聞けたおかげで、「いいこだわり方」が身についていった気がします。
その後、開発部門に来て商品の誕生のプロセスそのものに携わり、改めてとことん突き詰めることが必要だと思えました。それぞれにびっくりするぐらいにこだわりの強い周りの人たちにも触発されて。「あ、こだわっていいんだ」「これって大事な感覚なんだ」という思いに還ったんです。ただそこには、前にはなかった客観性みたいなものが確実に足されていましたね。
こだわることをいい形で整理できたのが営業の時期、こだわりは大事なことだと許容されたのが開発に来てから。もしいきなり開発に来ていたら、自分のこだわりに対しての最終的な折り合いのつけ方がわからなかったかもしれません。営業の業務を通して流通やユーザーの方の声をリアルに体験できたからこそ、ちゃんと戻ってこれたんだと思います。
評価を越えて批判すら忌憚なく言ってくれる友人の声も大事だし、他の文具メーカーさんとの情報交換も貴重。ずっと続けています。こうした使う側からの発信を反映したりぶつけたりしながら、自分の思いや考えを研いでいく。今はそんな新しいこだわり方が、上手く仕事に活かせている実感がありますね。
開発担当商品『PENSAM』(ペンサム)で実感した「使われる」喜び
【Q】開発を担当した商品と今後の展望は?
『ペンサム』というマグネットの力でダイアリーや手帳の表紙にはさめるペンケースです。
開発のきっかけは自分の経験でした。いつでもすぐに使えるように手帳の表紙にペンを挟んでいたんですが、カバンの中でよく見失ってしまったりペンや手帳も傷みやすかったり。なんとかしたいなぁ。じゃあ、手帳にペンケースがくっついちゃえば。どうしたらできる?…といういたってベーシックな困りごとの解消がスタートでした。
『キングジム』では初めてのペンケースでもあり手探りでの市場参入でしたが、おかげさまで一時は在庫切れになるくらい好評をいただきました。続けて色増し・型増しとしてバリエーションを展開することができ、2016年の社長賞をいただきました。賞をいただけたことはもちろんですが、一緒に仕事をしていた営業が喜んでくれたことでさらにモチベーションが上がりました。
自社の商品が評判になることの感じ方も少し変わりました。営業の時は、売り場でお客さまが自社の商品を手に取ってレジに向かってくださるのを見て、売れたこと・買っていただいたことに嬉しさがありました。今は実際に「使われている」ということに喜びを感じています。
『ペンサム』も、SNSやブログで「使ってみたらとても便利」って紹介されたのを初めて見たときすごく感動しました。考えたところがちゃんと伝わってる手応えを感じましたね。
開発担当としてはまだ2年半。企画のスタートから商品化まで、自分で通して担当したものも『ペンサム』シリーズだけです。開発部門にいられる間は、自分の企画した商品をひとつでも多く世に出せるように、お客さまの手元に届けられるように頑張るだけです。
開かれた育成風土。日常業務の場面ひとつひとつが全て教育・研修の場
【Q】育成の風土は?
所属する部門・チームや担当の関係なく、とにかく面倒見のいい環境ですね。
「俺の背中を見ろ。着いてこい。ノウハウは盗め」と言うよりは、やる気があって思い切って踏み込んでいけば、周りが必ず寄り添ってきちんと反応してくれる。そんな風土です。本当にいろんな面で助けられている感じがします。
入社後最初に着いてもらった教育係の営業の先輩から、相談できずにいろいろと溜め込んでいた時に言われたのが、「入社1年目は、何を・いつ・何回聞いてもいいから、どんどん質問して」。すごく気が楽になりました。
開発部門に関しては、あくまでテーマやアイデア・考え方の方向を組み上げていくことが主な仕事なので、文系・理系の出身を問われません。実質的な構造や素材を具体化していく段階では、それぞれ技術系のエキスパートに参加してもらって一緒に進めます。だから、仮に強度や製造技術上のことなど専門的な領域のことがわからなかったとしても、かなり丁寧に教えてもらえるんです。
営業系のスタッフも、機能のレベルと販売価格のバランスなど「売り」の側面からいろいろなアドバイスをしてくれます。
それと社外の関係者の方々、例えば開発であれば加工先、営業であれば流通の方からも教えてもらえる機会が多いですね。叱られたりすることもある反面「どうすることがいいのか」もちゃんと言ってもらえます。長いお付き合いの中で、先輩方がいい関係を繋いできてくださった結果なんでしょうね。
入社後約1か月の集合研修以外に、明確に体系化・制度化された社内の教育・研修のカリキュラムはありませんが、普段の業務プロセスの中で情報を得たり意見を求めたりチェックしたりされたりする機会は本当に潤沢にあります。その意味では、社員同士が教育の体制を整備していることになっているし、この環境にいることが充分な研修になっていると思います。
数々のヒット商品を支えるチャレンジ・マインド。新製品が毎月誕生!
【Q】自社の自慢できるところは?
ひとつは、先の面倒見の良さの延長になりますが、社員間の交流が密で関係の距離感がないところですね。
仕事のスタイルそのものが部門横断型であることが大きな理由にもなっていますが、ほぼみんなが顔見知りです。
もうひとつは、毎月新しい商品が断続的に出ていること。
自分としては、入社した時から既にそうだったので当たり前のこととして受け止めてしまっていましたが、他のメーカーの方からびっくりされました。すごくチャレンジャブルな攻めの企業スタイルだと感心されます。
社長をはじめとする経営層が出席する「開発会議」でも、誰かひとりが「これはいい!」と賛同すれば「やってみろ」になることが多いです。もちろん、『キングファイル』と『テプラ』というしっかりとした基幹商品があるからこそですが。「ヒット商品は10回に1回」という理解度の高い経営層のスタンスが、商品開発にとっての大きなエネルギーになっていることは間違いないですね。『PENSAM』も一度はダメだったんですが、粘って手を加えて再トライして認めてもらったんです。
終始にこやかに語ってもらったエピソードは、どれも文房具「愛」に溢れていた。
最後に就職活動に取り組む学生諸君へのメッセージをお願いした。
就職活動が終わって社会人になった時、改めて思ったんです。こんなに「自慢話」ができる時は他にないなぁって。
自分の良さを堂々と人にアピールできるシーンなんて、就活の面接場面だけ。そんなまたとないチャンスなんだから、遺憾なく気持ちよく自慢をして欲しいなぁと思います。
それと同時に、きちんと自己分析して再確認する意味でも大切な時期だと。自分の「いいところ」や「売り」をちゃんと考えて探してことばに落とすことは、自信にもなると思うんです。
私の「こだわり」の強さが強みでもあるけど弱点でもあるということも、就活の時にじっくりと考えて出した結論でした。
そう照れながら話す原さん。
今日も使う人を思いながらこだわることに、ちゃんとこだわり続ける。
企業公式サイト http://www.kingjim.co.jp
採用情報ページ http://www.kingjim.co.jp/recruit