君はこうなる!5年・10年 【 我が社の「若手育成計画」大公開! 】
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ひとりひとりが「サービス・クリエーター」。自立したスペシャリストをめざして

株式会社星野リゾート

グループ人事ユニット

矢島 明音

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今や人気のリゾートブランドとして、そのポジションを確実なものとしている『星野リゾート』。
都心に誕生した日本旅館「星のや東京」や新しいリゾートスタイル“グランピング”を提案する「星のや富士」などで話題の『星のや』。伝統的な温泉文化を現代にアレンジした進化系日本旅館『界』。スタイリッシュな西洋型リゾートホテル『リゾナーレ』。自然の中での贅沢なブライダルを演出する『軽井沢ブレストンコート』…とオリジナリティ溢れる数々の施設展開は国内から海外へも拡がる。
開発・所有・運営というリゾート事業の3つの役割を全て担う企業が多い日本の業界の中で、「運営」に特化するスタイルを貫く。そしてそこで徹底されているテーマは「お客さまの満足度の向上」。ただし、ここで言う「お客さま」は、施設利用者だけでなく、オーナー・個人投資家・デベロッパーといったステークホルダーも含む。たとえ上質感あるサービスを提供していたとしても、収益が上がらなければそれを継続することはできない。ユーザーも充分に満足し収益も上がる。その両立という難問に挑み続ける姿勢こそが、運営に特化した『星野リゾート』のプライドだと言える。

では、その難問を解く方程式は?…堅調に実績を上げるパワーブランドにおける独自の組織文化や考え方、人材育成への取り組みなどを、グループ人事の矢島さんに、より現場に近い目線からお話しいただいた。


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個々の経営的視点を育む『サービスチーム』制

最も特徴的なのは、『サービスチーム』という体制ですね。
「Ganhoな組織文化」と呼ばれるケン・ブランチャードが提唱した概念がベースにあって、それが暗黙知的に働き方の中に浸透している感じです。一口に言うと、スタッフひとりひとりが常に経営的な視点で判断し動くことが標準…ということでしょうか。

それぞれの事業所や施設がひとつの会社として成り立っていて、そこでの数値化・グラフ化された経営情報や顧客満足度のデータなどが全スタッフに開示されています。それをもとに各自が、良質なサービスと収益・コストのバランスについて考え、課題や対策を具体的にして、自分の意見を持って業務に臨んでいます。『星野リゾート』の場合、役職のある人が一方的に決めたり判断したりすることはないので、メンバー同士が切磋琢磨し協力し合う状況になりやすいですね。現に、どの事業所も総支配人とプレーヤーの2層構造で、規模の大きい施設でも、その間にユニットディレクターが入るくらい。階層が少ないです。
社内では「ひとりひとりが『サービス・クリエーター』であれ」…と言われています。キャリアとは関係なく各々の責任の範囲も広く、プレッシャーもありますが、反面自己裁量の幅も広い。若い世代にとっても挑戦しがいのあるフラットな環境です。

フラットという意味では、全社的に「本社」という概念がないのも「らしさ」でしょうか。各旅館・ホテル、それぞれの施設・事業所が独立した会社であり本社であるという捉え方なので。私たち人事などのセクションは、横断的に業務を支援するという意味で「サポート部門」と呼ばれています。

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『ホスピタリティ・イノベーター』マインドでの脱コモ

ホテル業界では世界的に「コモディティ化」が進んでいると言われています。力量のある運営会社が、各地に同様のノウハウで進出しているため、いい施設はたくさんできてはいきますが、どれも似通ったものになってしまいかねない。特にサービス面での画一化は問題だと思います。
社長自らが全施設を廻りながらその回避戦略の理解を図っています。スローガンは「脱コモ山 登れ」。そしてそのコアとなるビジョンが『ホスピタリティ・イノベーター』。リゾート事業において新しい価値を生み出し、より個性化していくブランドでなければならない…という考え方です。

その具体的施策のひとつとして、「世界のリゾート市場に『日本旅館』という選択肢をつくる」という方向を打ち出しています。
西洋型のホテルサービスの基本は主従関係。客のニーズにベストを尽くすという意味で価値はありますが、ともすれば差別化しにくくなります。対して、日本旅館の「おもてなし」の本質は主客対等で、もてなす側のこだわりを見せてその演出に共感してもらうことに意義があるとしています。明らかに迎える側それぞれの個性が出ますよね。この「文化共有」という日本独自の思想を海外のホテルにも導入していこうと…。
タヒチやバリ島では既に始まっています。外観や施設は現地色のあるものですが、運用やサービスのコンセプトには主客対等の「おもてなし」が浸透しています。企画も全て現地のスタッフで進めているんですよ。その土地の自慢できる素敵なことをたくさんの人に知ってもらって、一緒に楽しみたいとか喜んでもらいたいとかいう気持ちは、どの国の人でも潜在的に共通して持っているはずです。ただそれを発信する機会がなかなか与えられていなかっただけで。とてもいいチャレンジになっていますね。

『魅力開発プロジェクト』という活動もあります。
それぞれの土地で暮らす各施設のスタッフが、訪れるお客さまもまだ知らない地域の魅力的な要素を発見し、楽しんでいただけるような企画やコンテンツを組み立てています。もちろん入社1~2年目のメンバーも参画して。
例えば、青森県の『奥入瀬渓流ホテル』では、ふとした思いつきで「苔」に注目してアイデアを拡げ、リゾート滞在の中で「苔」の知識や奥深さ・生体の不思議に触れるような旅を提供し、思わぬヒットになりました。「こけガール」がキーワードとしてひとり歩きしたりして…。

このような企画は、各施設で行なわれている『魅力会議』というミーティングから生まれています。
お客さまにその土地ならでは、その季節ならではの魅力を体感していただくために、滞在プランやお部屋のアレンジや献立・アクティビティなどのアイデアを練ります。これももちろん自主運営で。この会議、若手にとっては、個性を発揮するのにとてもいいチャンスですし、マーケティングスキルがすごく鍛えられる気がします。

お客さまのニーズや期待を超えたサービスを提供し、「この土地、この宿に来て良かったなぁ」と心から思っていただくために、まずは自分たちがとことん楽しんでこだわって「もっといいもの」を求めていく。それが『ホスピタリティ・イノベーター』のマインドであり、『サービス・クリエーター』としてのスタンスなんじゃないかと思います。

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自分のキャリアは自分でつくる

「育成」のための仕組みは、すごく充実していると自負しています。
考えたり、学んだり、体験したり、挑戦したりできる機会は本当にたくさん提供してもらえています。後は自分次第。そのチャンスを意欲的に活かすかどうか?…「自分のキャリアは自分でつくる」が太い方針です。誰かに指示されるのではなく、自分で決めて、自分で選んで、自分で取り組む。主体性が問われますね。

研修制度の中心にあるのが、『麓村塾』という社内ビジネススクールです。
社長によるマーケティング講座やビジネス・サービス・ITリテラシーといったジャンルの基礎講座をメインに、戦略立案・組織マネジメントなどの応用編から地域文化・歴史・温泉・方言・ワインといった実践的なテーマまで年間約100講座。バラエティに富んでいます。
拠点は東京オフィスですが、テレビ会議でどこからでも受講できます。自主参加が基本ですが、満席やキャンセル待ちになる講座もあります。
各施設からの要望での現地版『麓村塾』もあります。こちらは講師も全て自社スタッフで、経験したり学んだりして得た知見を施設横断的に拡げる感じです。

自分の成長に向けて、時間を含め投資をしようという感覚は、全社的に強く浸透していると思います。
『麓村塾』以外にも、休日にお酒の蔵元やワイナリーに製造工程の見学に行ったり、現地の人に歴史や伝統工芸の取材をしたり…学習に対する個人のモチベーションがみんなすごく高いです。
きっと、「評価」の距離感が近いと言うか…自分の「できること」への評価がわかりやすい環境だからじゃないんでしょうか。自分が身に付けたことを実践した時のお客さまの反応そのものが評価なんですよね。喜んでいただけたなら合格。とても嬉しい。反応が良くなければすぐに修正。しかもアンケートでの満足度も常に数値化されて見える。表情と数字、定性的かつ定量的に自分のレベルが常時点検できることが、やる気につながっていくんだと思います。

評価という意味では、社内の「評価制度」自体も独特かもしれません。
顧客志向・達成志向・戦力的行動などの指標について7段階で評価されます。ただ、面談の場があって、そこでは自分からのアピールもできるし、課題に対する今後の行動や対策も話し合われます。

配属に関しても、基本的には「自分がここでやる」という個人の意識が強く尊重され、会社からの一方的な指示で異動が決定することはありません。
また、総支配人やユニットディレクターは立候補制です。戦略や目標を全社メンバーに向けプレゼンし、アンケートや普段の仕事ぶりなどと合わせて決定されます。30歳の総支配人も誕生しましたね。
また、新規施設の開業スタッフやサポート部門への配属は公募制ですし、年1回の異動希望調査も実施されます。もちろん客観的な適性判断のうえでの決定ですが、理由やニーズ次第で意志が反映されます。
新人も本人の希望を聞いてもらえます。複数の希望を申告したうえで、研修期間中の適性チェックや希望先の総支配人との面談を通じて勤務地が決まっていくんです。
地方の施設で働きたいという希望も多いですよ。自分が宝を探し出して、その結果地域の活性化にもつながって…という夢もあって。

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「自分で考える」ことの習慣化が新人育成のベース

採用については、17年度で400名前後を予定しています。
全採用者の多くは4月入社ですが、その後も6月・10月・2月にも入社のチャンスがあります。一度ダメだったとしても、3か月間を空ければ再チャレンジすることができるんです。学生にとっての3か月は、充分に成長のできる期間だと。だから、留学やインターンシップなどを体験して、ひと回りもふた回りも大きくなってもう一度挑んで欲しい。既に採用の時点から、自主性に対して強い期待が向けられています。

入社後も、すぐに「自分で考える」ことを求められます。
『新入社員研修』は完全に自主運営。「どんな研修にしたいか?」「一日の時間をどう使うか?」を、チームに分かれて自分たちで考えて検討して決めて、それに対してアドバイスしていくスタイルです。

『シェアキャンプ』という仕組みもユニークです。一般に言う「OJT」制度の進化形という感じでしょうか。通常は、3~4年目のスタッフが新人や若手の面倒を個別に見るケースが多いようですが、「シェアキャンプ」の原則は、横の展開の中で自分たちの悩みを解決することにあります。自分たちのプロジェクトで困っていることを、テレビ会議を通じて他の事業所や施設のメンバーに相談し、アドバイスを受けたり経験則を聞いたりします。問題解決や成功のための新しい発見を、事業所や地域を繋げシェアすることで推進していく。まさに仲間と一緒に考え、答えを導く機会として定着しています。

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ミスを恐れず強みを伸ばす。前向きさのゴールが「プロ」

目ざしているのは「最強のチーム」だと思います。
「多様な価値観や個性を大切に」と社長がよくことばにしますが、苦手なことをカバーしながら平均的な人間になるよりも、強みや得意なことを見つけてそこをどんどん伸ばせ…という意味だと理解しています。
専門性を持ったスペシャリスト同士が個性をぶつけ合ってこそ良いものができる。そのためにも、自分の強みをつくりなさい。自分が何のプロになるかしっかり考えなさい。それが方針の翻訳ですね。

もうひとつ、「ミスを憎んで人を憎まず」ということもずっと言われ続けています。
誰が失敗した? 誰が悪い?…ではなくて、なぜそのミスが起きたのか? どうしたらそれが次に活きるのか?…をみんなで考えよう。そんな文化も根強くあります。
『ミス撲ボックス』がその代表。当事者が、内容だけでなく経緯や自分が思う解決策・再発防止策を書いて入れる。それを毎晩グループごとに議論しています。ミスは隠すものではなく共有するもの。そして改善するもの。みんながそう思っているので、ミスをしてもその情報を積極的に開示することで、「ありがとう」と言われることだってあります。

いずれにしても、自分と向き合う。自分で課題を見つける。考えて本質を捉えながらやってみる。そんな前向きさを全面的に認める土壌が、企業『星野リゾート』の最大の魅力だと思います。


最後にご自身のことを聞いてみた。

入社5年目。私自身が文字通り「成長」途上です。最初は『星のや軽井沢』での勤務でしたが、希望して人事の仕事に就かせてもらいました。年間500名規模の採用の計画と運営に携わっていくのは確かに大変で、まだまだ試行錯誤の連続です。でもきちんとやりたいし、やらなければならないし。いい風土をもっと良くしていける人事の専門家になりたいですね。

そう語る笑顔からは、やりがいと「仕事が楽しい」…がいっぱいに伝わってきた。

 

企業公式サイト http://www.hoshinoresort.com
採用情報ページ http://recruit.hoshinoresort.com